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正月三日の晩に伏見奉公所を押し出してから、わしは二日の間何も口に入れてはおらなんだ。

『会津の小荷駄方からわけてもらいました』

あらかたがつがつと貪り食ろうてしまったあとで、わしは何とはなしに気にかかって訊ねた。


『貴公、食ったのか』

『いえ、若い者から順ぐりに渡しまして、これが残りの一つです』

吉村とは、そういう奴じゃった。馬鹿ではあるが、仁者であったよ。

柄に似合わず、わしはそのときおのれを恥じた。

『なぜそれを先に言わぬ。残りの一つを、わしが食ろうてしもうたではないか』

すると吉村は、細い指をわしの口元に差し延べて、飯粒をひとつつまんだ。
そして、その一粒を前歯で噛みながら、こんなことを言うたのじゃ。

『ひもじさには慣れておりますゆえ、これで満腹です』



もう我慢ならなかった。

人間は嫌いじゃ。おのれのことより他人を気遣う仁者はもっと嫌いじゃ。
たかが糞袋が、なにゆえ他人の腹を気遣う。
人が人を憎み、恨み嫉みの末に命を奪い合うこの世の中で、おまえはなぜおのれの腹すらも満たそうとはせぬのじゃ。

罵る声はひとつも言葉にはならず、わしは奴の襟首を締め上げ、乱れた髪をゆすり立てながらようやく言うた。
『吉村、逃げろ』とな。



壬生義士伝より。斎藤目線で書いてあるぜよ。今の日本には吉村みたいな人が一体何人いるのか…そんな風に思ってしまいます。
かなり文章省いてしまた…実はこれ、若斎藤さんが吉村を押し倒しちゃいます。いやん。
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